2017/03/24 10:32:31
類似業種比準方式の見直し
平成29年度改正では、非上場株式の相続税評価における類似業種比準方式の見直しが行われます。国税庁の財産評価基本通達を見直すため、同庁は3月1日に改正案を公表し、同月30日までパブリックコメントに付しています。
同方式の比準要素の見直しについて、1つは、上場企業の配当や利益、簿価純資産を「1対3対1」の割合で計算していたのを「1対1対1」に改めます(同通達180)。これにより利益の比重は5分の3から3分の1になるので、利益を出す成長企業の評価は下がり、一方で、純資産の比重が5分の1から3分の1と大きくなるため、内部留保の多い企業は評価が高くなる可能性があります。
2つ目は、上場企業において連結経営が進む状況を反映するため、連結財務諸表に基づく比準要素に改めます。
3つ目は、上場企業の類似業種株価について、前月、前々月、前々月の前月の中から最も小さいものと、前年平均の株価との選択制だったのを、「前2年平均」でも差し支えないとして(同182)、上場企業の株価が急上昇しても株価の影響を抑えるようにします。
4つ目は規模区分を見直し、大会社と中会社を拡大します(同通達178)。例えば、大会社の従業員数を100人以上から70人以上に下げるなどして大会社の範囲を拡大します。純資産価額との併用方式となる中会社については、中会社のなかの大中小を区分する総資産価額や取引金額を引き下げ、類似業種比準方式の割合が0.9と最も高い「中会社の大」の範囲を広げる見込みです。
相続税の財産評価においても、中小企業の内部留保に課税しようとする考え方が反映したものとなっているようです。その一方で、大会社の範囲を広げるなど世の中の現状に留意したものとなっているようです。
2017/02/24 08:45:58
続々と税制改正
「所得税法等の一部を改正する等の法律案」が2月3日、開会中の第193回通常国会に提出されました。改正の目玉候補だった所得税改革は先送りされましたが、法人税関係ではデフレ脱却に向けての設備投資減税等の拡充にコーポレーガバナンスの視点が加わり、バラエティに富んだ改正メニューとなりました。国際課税の点からは、外国子会社合算税制の見直しに加え、相続税関係で納税義務の範囲の見直しが行われるので、留意したいです。
所得税法改正案からみていくと、配偶者特別控除の見直しにより、配偶者控除が受けられる配偶者の収入制限は103万円から150万円に上がる一方で、新たに配偶者控除に所得制限(本人の合計所得金額が1,000万円以下)が加わります。注意したいのは、平成28年10月からの社会保険料の適用者拡大により、配偶者の社会保険料負担が発生すると、世帯の手取額が減り、配偶者の収入130万円の前後で逆転することです。平成30年分の所得税、平成31年度分の住民税から適用されます。
気をつけたい改正は、外国税額控除の適用を受ける場合にその基礎となる「控除対象外国所得税の額等」を納税者の立証すべき事項と明確化するものです。法人税法でも同様に明確化する条文に改められます。医療費控除は現行の領収書添付に代えて、医療費の明細書や医療保険者等の医療費通知書を添付すればよくなります。平成29年分から適用できるが、平成31年分までは現行との選択制としています。
いつの間にか、私たちの身の回りのルールが変わっていきます。追いつくのが大変です。順次、お知らせいたします。
2017/01/26 13:57:06
平成27年分相続税申告事績
基礎控除引下げ等が行われた相続税改正の適用初年となる平成27年分相続税申告事績がさきごろ国税庁から公表されました。課税対象の被相続人割合(課税割合)は見直し検討時に想定されていた6%を大きく上回る8%となったことが分かりました。
平成27年中に亡くなった被相続人数は、前年を1.4%上回る約129万人。うち、昨年10月末までの相続税額のある申告書提出に係る被相続人数は10万3,043人と前年分に比べ4万6,804人もの大幅な増加となりました。この結果、課税割合は4.4%から8%に上昇し、現在の課税方式になった昭和33年以降で最高を記録しました。基礎控除引下げによるところが大きく、課税価格1億円以下が前年分の1万4,846人から6万283人と約4万5千人も増加しています。なお、国税局別で見ると、東京国税局管内が7.5%から12.5%と2桁になったが、特に東京都は15.7%で、相続人の6〜7人に1人が課税対象となっています。
相続税申告に係る相続人の数も23万3,555人と前年分から10万人超増加し、相続税の課税価格は14兆5,554億円(対前年比26.8%増)、税額は1兆8,116億円(同30.3%増)と大幅に増えました。ただ、課税価格1億円以下が全体の約6割を占めるため、被相続人1人当たりの課税価格は1億4,126万円と30.8%も前年分を下回り、これに係る税額も28.9%少ない1,758万円で、平成6年以降では最低となりました。
基礎控除の引き下げは、従前の予測より大きなインパクトを与えていることが分かりました。税務署や税理士業界にも新たな対応が求められますね。
2016/12/21 09:51:46
平成29年度税制改正大綱の所得税
自由民主党・公明党は12月8日、平成29年度税制改正大綱を決定のうえ、これを公表しました。法人税改革に続いて、所得税改革の手始めに配偶者控除の抜本的見直しに挑みましたが、与党内の反発を受け、早々に断念したため、ほぼスケジュール通りの決着となりました。
ただ、平成29年度大綱では所得税改革に今後も取り組む姿勢を示し、平成30年度税制改正においてゼロ税率の導入や税額控除への移行など控除方式のあり方に手を付けます。さらに、給与所得控除などの「所得の種類に応じた控除」と基礎控除などの「人的控除」のバランスを見直すとしており、後者の比重を高めることが予測されます。
平成29年度改正で実施される配偶者控除の見直しを確認すると、納税者本人の所得制限が初めて設けられ、所得金額に応じた控除額は、(1)900万円以下なら38万円(住民税は33万円)、(2)900万円超950万円以下なら26万円(住民税は22万円)、(3)950万円超1,000万円以下なら13万円(住民税は11万円)と逓減していく仕組みとなります。配偶者特別控除については、その対象となる配偶者の合計所得金額の下限は38万円超のままだが、上限を76万円未満から123万円以下へと広げる。この結果、配偶者控除を受けることができる控除対象配偶者又は老人控除対象配偶者の合計所得金額は103万円から150万円に広がる。平成30年分以後の所得税、平成31年度分以後の個人住民税から適用されます。
配偶者控除に納税者本人の所得制限を設けるそうです。所得税の確定申告の際、計算が複雑となります。もっとシンプルにしていただけないでしょうか。
2016/11/22 17:34:19
所得税と消費税の税務調査状況
国税庁は、「平成27事務年度における所得税及び消費税調査等の状況について」を公表しています。
それによると、平成27事務年度(平成27年7月〜平成28年6月)に行われた所得税の実地調査の件数は、特別調査・一般調査が4万8千件(前事務年度4万9千件)、着眼調査が1万8千件(前事務年度1万8千件)、簡易な接触の件数は58万4千件(前事務年度67万2千件)となっています。
これら所得税の調査等の合計件数は65万件(前事務年度74万件)で、そのうち申告漏れ等の非違があった件数は39万6千件(前事務年度46万6千件)、申告漏れ所得金額は合計で8,785億円(前事務年度8,659億円)となっています。
また、事業所得を有する者の1件あたりの申告漏れ所得金額が高額な業種は下記のとおり(カッコ内の金額は1件あたりの申告漏れ所得金額)。
1位 キャバレー (2,628万円)
2位 風俗業 (2,326万円)
3位 畜産農業(肉用牛) (1,471万円)
一方、消費税(個人事業者)の実地調査の件数は、特別調査・一般調査は2万7千件(前事務年度2万8千件)、着眼調査は8千件(前事務年度8千件)、簡易な接触の件数は5万3千件(前事務年度5万件)となっています。
これら消費税(個人事業者)の調査等の合計件数は8万8千件(前事務年度8万6千件)で、そのうち申告漏れ等の非違があった件数は6万1千件(前事務年度5万9千件)、調査による追徴税額は合計で271億円(前事務年度232億円)となっています。
このほか公表資料では、参考資料として下記の4項目が取り上げられており、調査が強化されていることをうかがわせます。
・いわゆる「富裕層」への対応
・海外投資等を行っている者の調査状況
・無申告者に対する調査状況
・インターネット取引を行っている者の調査状況
近年、税務署の職員数が以前より少なくなっていると思われます。よって、税務調査もより効率を求められています。しかし、手続きに時間がかかり、最終的な調査期間は伸びているように感じます。皆さん、お金を儲けて、適正申告しましょう。そうしたら、税務調査もこわくないですよ。